一丹(いちに)の国に住む算(さん)という人が書き記したという形式をとるこの本はコラム集となっています。7年間ずっと書き続けたものを1冊の本にまとめたそうです。その名の通り、算数を題材にしたコラムが多いのですが、著者は画家なので、ちょっと変わった視点から身近にある題材をとりあげて、自分の疑問やひっかかりを解説してくれます。
各章に番号がふってあって、数行のものから、数ページの章まであり、どこからでも読み始められるし、途中で切りやすい。忙しい人にも読みやすいと思います。
その中から二つご紹介します。
「一個千円の西瓜(すいか)を二つに割って売れば五百円ずつになる理(ことわり)だが、中身が保証される分だけ高くてもいい、という考え方もある。」
とまあ、まじめな考察があるかと思えば
「清という子がいた。社会奉仕デーに、彼は公園の木を鋸(のこぎり)でかなり大きめに切って先生に怒られた。彼は『公園の木を大切にしましょう』とかかれた立て札を指さしながら泣いた。」
こんな、落語みたいなおハナシも。
ほんとにあったのかどうかは、算のみぞ知るところでしょうが、こんなユーモアのあるエピソードなども交えながら、数にまつわる事柄を紹介していきます。
実はもともと三冊刊行されたのですが、内容が古くなったものもけっこう見受けられるので、現行のものは1巻にまとめられ、文庫になってます。
※今回ご紹介した文章は1980年発行の第一刷によるものです。
新編 算私語録 安野光雅著 朝日新聞社文庫刊 税込693円
2006年12月記
「高校生のための」とありますが、そんな限定をつける必要はないでしょう。あるとすれば、それは編者たちが、同じ工業高校の国語教師たちで、これが学生たちに向けて編まれたであろうこと、ぐらいです。確かに教科書のような体裁で、2,3ページ抜粋した古今東西の文章を注釈や解説を交えながら書いてはありますが、どこかが違っています。これだけ様々な時代や洋の東西を問わず集められた文章から、編者たちの意思を感じとることができます。
それを一口に言うのは難しいのですが、あえて言うと「多様性を認めること」でしょうか。いったい、これだけの様々な文章が一冊にまとめられているものが、教科書のほかに思い浮かびません。しかし、明らかに教科書とは方針が違っています。それはユーモアのセンスとでもいったもので、多くは口語で語られるようなたぐいの雰囲気です。これらが指針や解説に感じられて、この本を親しみのもてる教師から語られた授業のようにしています。
高校生のための文章読本 梅田卓夫、清水良典、服部左右一、松川由博共編 筑摩書房刊 税込1,050円
2007年1月記
今年2007年の夏は暑かった。9月も半ばになってようやく涼しい風が吹き始め、1年でもっとも好きな季節になってきた。この時期に「漂泊の思ひやまず」ページをめくるのが、この本。自然は好きだけど、わざわざ高い山に登ろうとは思わない。たまにしか野歩きしない者にとっては、なにより下りがこたえる。街歩きのウォーキングガイドはけっこうあるが、こういったトレッキングコースのガイドブックというのは、あまりないのではないだろうか。それぞれのトレイルコースを見開き2ページにわたるカラー写真と同じく見開き2ページにわたる解説と地図、という必要にして十分な構成になっている。カラー写真は美しく、そこに行ってみたいと思わせてくれる。解説ではバードウォッチャーでもある筆者が鳥や植物について詳しく紹介してくれる。さらに実際に歩いた者でないとわからないコース上の目印や見どころ、最寄りの温泉地までと、かゆいところに手の届くような案内である。
この本を読んで実際に訪れたオンネトーや焼尻島、羽衣の滝、巨木の森や円山、神仙沼などなど、行きにくいところや身近であってもなかなか行く機会のないところを教えてもらった。そこには北海道の恵まれた自然があり、往復の道々で誰にも会わないようなぜいたくな空間が広がっていた。さて、今度はどこへ行こう。
2007/09/09
nprというアメリカのラジオ局に投稿された、さまざまな物語。その物語は「事実でなければならず、短く」ないといけない。募集した編者は、「世界とはこういうものだという私たちの予想をくつがえす」ものを期待したのだが、1年間に4千通という予想以上の反響に、編者は翻弄された。その4000の中から179の物語を集めたのが、この本。
その実際にあった物語は「文学とは違う何かなのだ。もっと生な、もっと骨に近いところにある何か」と編者が言うように、各人が直接受けとったものが、実感をもって表現されている。これらの物語は1999年から2000年にかけてのアメリカを切り取っている。2007年の現在であれば、当然書かれていると思われるような話がなかったりもする。翻訳者による後書きでは、そのことにも触れている。
改めて思うのは、アメリカが多民族国家であるということだ。それがこのような多様性や混沌や矛盾や化学反応を生んでいる。そうであるからこそ埋もれがちな一個人の物語を、尊重し、さらに「ナショナル・ストーリー」にまとめる、といったその発想に多くの人々が賛同したのだろう。何はともあれ眠れない夜にふさわしい本です。
2007/09/21